古川緑波『ロッパ食談』より 「天丼」

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「エノケン・ロッパ」で知られた喜劇役者である著者は、
当時、食通としても知られていた。
彼の丼に対する思いには、極めて共感するところ多し。

『一流の料理屋というのは、つまり、上品で高い料理屋のことでしょう!
 そういう一流店でばっかり食べることが通だと思われちゃあ、
 敵わないと僕も思うのである。/
 例えば、だ。天ぷらを例にとって話そう。いわゆるお座敷天ぷら。/
 そういう、一流の上品な味よりも、
 天ぷらを食うなら、天丼が一番美味い。と言ったら、驚かれるだろうか。
 そもそも、天ぷらって奴は、昔っから、胡麻の油で揚げてたものなんです。
 だから、色が一寸ドス黒いくらいに揚がっていた。/
 この頃は、天丼も、上品な、サラッとした天ぷらが載ってるのが多いが、
 それじゃあ駄目。
 丼の蓋を除ると、茶褐色に近い、
 それもうんと皮(即ちコロモ、即ちウドン粉)の幅を利かした奴が、
 のさばり返っているようなんでなくちゃあ、話にならない。 
 その熱い奴を、フーフー言いながら食う、飯にも、汁が浸みていて、
 (ああ、こう書いていると、食いたくなったよ!)
 アチアチ、フーフー言わなきゃあ食えないという、
 そういう天丼のことを言ってるんです。/
 こうお話したら、大抵分かって戴けるであろう、下司の味のよさを。
 天ぷらばっかりじゃない。下司味の、はるかに一流料理を、
 引き離して美味いものは、数々ある。』

(P44~45)

ロッパさんに言わせると、「天茶」もオツで結構だが、
下司の天丼には敵わないということ。
ちなみに、この『下司味礼賛』というエッセイの最後には、
牛丼に対する言及もあるので、記録しておこう。

『むかし浅草に盛なりし、牛ドンの味。
 カメチャブと称し、一杯五銭なりしもの。
 大きな丼は、オードンと称したり。
 あの、牛(ギュウ)には違いないが、牛肉では絶対にないところの、
 牛のモツや、皮や(角は流石に用いなかった)その他を、
 メッチャクチャに、辛くコッテリ煮詰めた奴を、
 飯の上へ、ドロッとブッかけた、あの下司の味を、我は忘れず。
 ああ下司の味!』

(P46)
  
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